東京高等裁判所 平成元年(行ケ)216号 判決 1993年1月27日
主文
特許庁が、同庁昭和五九年審判第一四一八二号事件について、平成元年四月二〇日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
理由
第一 当事者の求めた判決
一 原告
主文同旨
二 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者間に争いのない事実
一 特許庁における手続の経緯
被告は、昭和五一年一一月一一日に出願され(特願昭五一-一三五九二七号)、昭和五六年一二月二三日に出願公告され(特公昭五六-五四〇一六号)、昭和五八年一〇月一七日に設定登録された第一一七一二九三号特許権の特許権者である(以下、この特許を「本件特許」と、その発明を「本件発明」という。)。
原告は、昭和五九年七月一八日、本件特許につき特許無効の審判を請求した。
特許庁は、同請求を昭和五九年審判第一四一八二号事件として審理したうえ、平成元年四月二〇日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として九〇日を付加)との審決をし、その謄本は、同年六月一四日、原告に送達された。
二 本件発明の要旨
特許請求の範囲第一項記載の以下のとおりである。
「平均分子量が五〇〇万以上、非晶係数が〇・一以下、数平均の一次粒子径が〇・一~〇・四ミクロンであり、示差走査熱量計による結晶融解図上三四七度シー±二度シーの範囲に鋭い吸熱ピークを持ち、三三〇度シーから該吸熱ピークの温度の間には明確なピークないしはショルダーを示さないことを特徴とするポリテトラフルオロエチレンフアインパウダー。」
三 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明の要旨を上記のとおりと認定し、審判請求人(原告)の主張した次の(1)ないし(3)の無効事由をいずれも理由がないと判断した。
(1) 昭和五三年二月一〇日付け手続補正書(全文訂正明細書、第二回補正)及び昭和五五年九月三日付手続補正書(第三回補正)でもつてされた手続補正は、(A)第二回補正により、特許請求の範囲第四項に特定の重合条件を加入した点、(B)第二回補正により、示差走査熱量計による結晶融解図における「吸熱比」及び「吸熱ピークの半価幅」の概念、その測定法及びその特定の数値を明細書に加入した点、(C)第二回、第三回補正により、平均分子量の測定法ないし算出法を明細書に加入もしくは訂正した点、において、本件特許出願の出願当初の明細書(以下「当初明細書」という。)の要旨を変更したものであり、本件出願はこれらの手続補正書を提出した時にしたものとみなされ、その結果、本件発明は、特開昭五三-六〇九七九号公報(本件特許の出願公開公報)及び一九七七年四月五日に特許された米国特許第四〇一六三四五号明細書の存在により、特許法二九条一項三号及び同条二項に該当し、特許を受けることができないものであるとする第一の無効事由
(2) 米国特許第二五五九七五二号明細書を引用し、本件発明は、これと同一の発明若しくはこれから容易に発明することができたものであるとする第二の無効事由
(3) 本件発明には実施不能の態様が包含されているとする第三の無効事由
第三 原告主張の審決取決事由の要点
一 審決の理由中、本件発明の要旨の認定は認める。第一の無効事由の(A)についての判断(審決書写し五頁一六~二〇行)は争わない。
しかし、審決は、第一の無効事由の(B)及び(C)についての認定判断を誤り(取消事由一、同二)、第二及び第三の無効事由についての認定判断を誤つた(取消事由三、同四)もので、これらいずれの事由からしても、取消しを免れない。
二 取消事由のうち、取消事由一についての主張の要旨
(1) 本件特許の特許請求の範囲第一項の示差走査熱量計による結晶融解図(以下「DSCチャート」という。)の吸熱ピーク及びショルダーに関し、「吸熱比」及び「吸熱ピークの半価幅」という概念、その測定法及びその特定の数値が、第二回補正により、当初明細書に加入された。
審決は、この点を認めながら(別添審決書写し六頁一~五行)、この「吸熱比」及び「吸熱ピークの半価幅」は、当初明細書の「DSCチャート上三四七度シー±二度シーの範囲に鋭いピークを持ち、三三〇度シーから該ピークの温度の間には明確なピークないしショルダーを示さない」を補足的に説明するために加入されたものであり、その数値も、([1])出願当初の図面に記載されているDSCチャート及び([2])当初明細書の融解図形の特徴から出願時に得られていたと認められるDSCチャートを測定することにより得られたものにすぎないと認定し、「この補正により特許請求の範囲の記載が出願当初の明細書及び図面に記載された事項の範囲内でないものになるとは認めることはできない。」(同頁六~二〇行)と判断した。
しかしながら、審決のこの認定判断は、明らかに誤りである。
(2) 本件当初明細書には、本件発明のポリテトラフルオロエチレンフアインパウダー(以下「PTFEフアインパウダー」という。)の特定につき、特許請求の範囲第一項中の「示差走査熱量計による結晶融解図上三四七度シー±二度シーの範囲に鋭いピークを持ち、三三〇度シーから該ピークの温度の間には明確なピークないしショルダーを示さないこと」(以下「DSCチャートによる特定要件」という。)との視覚的な、漠然とした不明確な記載を補うものとして、本件発明の実施例一、二のDSCチャートである第二図、第一図と、これと対比して、本件発明の条件を充たさないPTFEフアインパウダーである比較例一~三のDSCチャートである第三図~第五図(本判決添付別紙一のとおり)が示されている。そして、実施例一のDSCチャートである第二図については「三三七度シーにわずかなショルダーが認められるものである」と記載され(甲第八号証の二第二〇頁一二~一三行)、他方、比較例一のDSCチャートである第三図については「三三七度シーに明確なショルダーを持つたものである」と記載されている(同二一頁一六~一七行)。
しかしながら、この両図を比較しても、どちらが「わずかなショルダー」を有し、どちらが「明確なショルダー」を有するのかを区別することは極めて困難であり、ショルダーがどうなつたとき明確であり、どうなつたとき明確でないのかをいうことができない。いわんや、この両図を比較して、その両者のショルダーの間に、本件発明の範囲に入るショルダーと範囲外のショルダーとの境界線を定めることは、全く不可能である。このことは、長谷川正木東京大学工学部合成化学科教授の鑑定書(甲第一四号証)に照らしても明らかである。
すなわち、当初明細書の記載によつては、本件発明のPTFEフアインパウダーをDSCチャート上特定することはできない。
(3) これに対し、第二回補正によつて明細書の発明の詳細な説明及び図面に新たに加入された「吸熱比」及び「半価幅」という概念、その測定法及びその特定の数値(甲第一〇号証の二第八頁一~八行、一〇頁一八行~一一頁一〇行、一二頁一六行~一三頁三行、実施例一~八及び比較例一~四についての吸熱比及び半価幅の数値、第一図(本判決添付別紙二第一図)のベースラインL、点A~G)は、当初明細書の「明確な」、「わずかな」という視覚的な漠然とした不特定な基準に、定量的な物指しを与えて、本件発明のPTFEフアインパウダーとそうでないものとを区分する定量的な識別基準を導入したものである。
このように、当初明細書及び図面においては、不明確かつ不特定であり、また、吸熱比及び半価幅については無であつた発明を、第二回補正により有に転化させ、明確化させたものであるから、当初明細書記載の発明と第二回補正後の発明とは同一性を欠き、第二回補正が当初明細書の要旨を変更するものであることは明白である。
(4) これに加えて、第二回補正により加入された上記記載は、当初明細書のDSCチャートによる特定要件の示す技術事項を実質的に変更し、拡張するものである。
すなわち、第二回補正による全文訂正明細書(甲第一〇号証の二)の実施例一、比較例一の各DSCチャートの図形、吸熱比及び半価幅の数値を、中前勝彦神戸大学工学部工業化学科教授の鑑定書(甲第一五号証、本件無効審判事件において、被告(被請求人)の提出した乙第二号証)に示された本件発明の実施例一、比較例一の追試における各DSCチャートの図形、吸熱比及び半価幅の数値と対比すると、DSCチャートのショルダーの明確さの度合いは、吸熱比、半価幅の数値の相違と一致しない。
また、上記全文訂正明細書の第一図のDSCチャートは、三三〇度シーから三四七度シー±二度シーの吸熱ピークの温度の間に明確なピークないしショルダーを示さないものであり、これから求められる吸熱比は〇・二一と記載されているが、仮に、この第一図のDSCチャートの六一〇度ケー(三三七度シー)より二~三度低温の部分に落ち込みが生じ、そのため六一〇度ケー(三三七度シー)付近にショルダーが現れたDSCチャートが得られた場合には、吸熱比は〇・二一と変わらないのに、明確なショルダーを示すと判定されることは明らかである。このことからすると、ショルダーが明確かどうかという判定基準によれば、ショルダーが明確であるため本件発明の範囲外になるものが、吸熱比という基準を採用すれば、本件発明の範囲内に取り込まれることになる。
以上のとおり、第二回補正による吸熱比、半価幅の概念の導入は、当初明細書のDSCチャートによる特定要件を実質的に変更し、拡張するものであるから、当初明細書の発明の要旨を変更するものである。
(5) さらに、審決は、上記認定の根拠として、出願当初の図面に記載されているDSCチャートとともに、「当初明細書の融解図形の特徴から出願時に得られていたと認められるDSCチャート」を挙げているが、後者のDSCチャートは、審判手続において証拠として提出されておらず、その存在及び内容に関するいかなる言及も、当事者双方からされていない。
すなわち、審決の上記認定は、証拠に基づかない違法な事実の認定といわなければならない。
(6) 以上のとおりであるから、第二回補正が当初明細書の要旨を変更するものではないとした審決の認定判断は誤りであり、この誤りは審決の結論に影響を与えるものであるから、審決は違法として取消しを免れない。
第四 被告の反論の要点
一 審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
二 取消事由一に対する反論の要旨
(1) 従来のPTFEフアインパウダーは、延伸性が劣つていたため、多孔性材料を製造するには、延伸工程を高温下で、かつ延伸速度を大きくして行わなければならないという欠点があつたので、延伸工程を比較的低温で、かつ小さい延伸速度で実施できるような延伸性の優れたものが待ち望まれていた。
本件発明は、この期待に応えることを目的として、特許請求の範囲第一項に記載された「平均分子量が五〇〇万以上、非晶係数が〇・一以下、数平均の一次粒子径が〇・一~〇・四ミクロンであり」という物性条件(以下「物性特定要件」という。)と「示差走査熱量計による……」以下のDSCチャートによる特定要件を充たすPTFEフアインパウダーを提供したものである。
そして、この物性特定要件の個々の物性条件は既知のものであるが、本件発明は、この物性特定要件を具備するもののうち、特にDSCチャートによる特定要件を充たすものが高い延伸性(具体的には、100%/秒で二〇倍の延伸が可能)を発揮するという新しい知見に基づくものである。
(2) 本件発明のDSCチャートによる特定要件は、特許請求の範囲の文言とDSCチャートの図形によつて表現されているから、当初明細書によつて確認が可能である。
すなわち、当初明細書は、DSCチャートの作成方法を特定し、また、効果に関する測定方法を開示したうえで、DSCチャートの図形の判断について、次のとおり記載している。
<1> まず、本件発明のPTFEフアインパウダーが上記特定要件の「DSCチャート上三四七度シー±二度シーの範囲に鋭い吸熱ピークを持ち」については、実施例一(第二図)及び実施例二(第一図)に示され、かつ、それらの延伸性は、毎秒一〇〇%の引張速度で二〇倍延伸が可能であることが当初明細書に記載されている。この「鋭い吸熱ピーク」の概念はDSCチャートの図形そのものによつて表現されているのであり、また、その構成の効果との対応関係は明らかである。
<2> 次に、上記特定要件のうちの「三三〇度シーから該吸熱ピークの温度の間に明確なピークないしショルダーを示さないこと」については、当初明細書の発明の詳細な説明及び図面(本件判決添付別紙一)により、次のとおり明らかにされている。
([1]) 「第一~五図は、DSCの測定図の一例を実施例および比較例で得られたPTFEフアインパウダーについて示したものである。いずれも三四〇~三五〇度シー(注、原文の「四五〇度シー」は「三五〇度シー」の誤記と認められる。)付近の吸熱ピークの前後付近のみを示したもので、横軸は温度(度ケー)を、縦軸は単位時間当りの吸熱量を表わし、図面中に単位量(ミリカロリー/秒)を記入してあり、また吸熱ピークおよびこれを基準として一〇度シー低い温度に縦破線を加えてある。」
「この中第一図および第二図は、本願の条件を満たす粉末である。第一図は実施例二で得られた粉末に関する測定図で、吸熱のピーク(三四六度シー)より低温の部分にほとんどショルダーがない。また第二図は実施例一で得られた粉末に関する測定図で、吸熱ピーク(三四七度シー)より一〇度シー低温付近にショルダーが認められるもののごくわずかである。」
「第三~五図は後記比較例で得られた粉末のDSCチャートで、いずれも本発明の条件を充たさない粉末の測定図を例示するものである。第三図は比較例一の粉末に関するもので、第二図に比して吸熱ピークより一〇度シー低温の付近にかなり明瞭なショルダーが認められる。第四図は比較例二に関するものでショルダーが顕著であり、第五図は比較例三に関するものであるが、吸熱ピークより一〇度シー低温の付近にショルダーというより、むしろピークが形成されている。」
「以上のようにDSC測定図上三四七±二度シーの結晶融解ピークより低温の吸熱ピーク、又はショルダーは、融解ピークの温度より約一〇度シー低温に現われるが、吸熱がショルダーとして現われる場合にはその温度の位置は定め難いことがある。従つて、これら結晶融解ピークより低温の吸熱ピーク、又はショルダーの有無の判定は三三〇度シーから融解ピーク温度までの範囲で行うのが適当である。」(以上、甲第八号証の二第八頁一九行~一〇頁一一行)
([2]) 「実施例一
……一〇ミリグラムの試料について、パーキンエルマー社製DSC-{2}型を用いて二〇deg/分の昇温速度、一〇ミリカロリー/秒の感度で測定した融点付近の融解図を第二図に示すが、この図は三四七度シーに鋭いピークをもち、三三七度シーにわずかなショルダーが認められるものである。
……押出されたひもを乾燥した後、三一〇度シーで延伸試験を行つたところ、一〇〇%/秒の引張速度で二〇倍まで延伸することができ、延伸物の外観は、均一であつた。」
(同一九頁一行、二〇頁八行~二一頁三行)
「実施例二~四
……これらの粉末のDSCによる結晶融解図形は、実施例二については第一図のとおりであり、実施例三および四については、ほぼ第二図と同様のものであつた。」
(同二二頁四行、一〇~一三行)
「第一表
実施例/融解図形(ピークの温度及びショルダーの有無)/延伸性100%
二/三四六度シーにピーク、ショルダーなし/100%/secで二〇倍に延伸可
三/三四七度シーにピーク、ショルダーなし/100%/secで二〇倍に延伸可
四/三四六度シーにピーク、わずかなショルダー/一〇〇%/secで二〇倍に延伸可
(同二三頁、甲第九号証三頁(11)~(13))
「実施例五
……押出されたひもは一〇〇%/秒で二〇倍に延伸することができ、延伸物は均一な外観を有し、満足な多孔体であつた。融解熱図形は第二図とほぼ同形で、三四七度シーに鋭いピークを持ち、低温にショルダーを持たないものであつた。」(甲第八号証の二第二六頁三行、同頁一七行~二七頁二行)
([3]) 「比較例一
……DSCによる融解吸熱図形は、第三図のとおりで、三四七度シーのピークと三三七度シーに明確なショルダーを持つたものである。
……押出されたひもの三一〇度シーにおける延伸試験において、100%/秒及び1000%/秒の速度で二〇倍延伸では途中で切断し、10000%/秒の速度で二〇倍延伸では外表面に無数の不均一なひび割れが発生した。」(同二一頁四行、同頁一四行~二二頁三行、甲第九号証三頁(9))
「比較例二
……DSCによる融解図形は第四図のとおりで、三四六度シーにピークを持ち、且つ三三八度シー近傍に明確な巾広いショルダーが観察された。押出されたひもの延伸試験においては、10000%/秒で二〇倍延伸物が不均一な外観で、不満足な多孔体であつた。」(甲第八号証の二第二四頁一行、同頁一六行~二五頁二行)
「比較例三
…DSCによる結晶融解図形は第五図のとおりで、三四二度シーにピークを持ち、さらに三三二度シー近傍に他のピークを有している。……押出されたひもは10000%/秒で二〇倍延伸試験で途中切断した。」(同二五頁三行、同頁一七行~二六頁二行)
<3> 以上の記載から見られるとおり、当初明細書は、本件発明の範囲に入るPTFEフアインパウダーのDSCチャートの図形は、比較例一~三のDSCチャートの図形と比べ、一〇度シー低温付近において「明確なピークないしショルダーを示さない」ことを明らかにしている。
つまり、本件発明のPTFEフアインパウダーの有する高い延伸性という特徴がDSCチャートの上に現れること、これと対比して、比較例一~三のDSCチャートの図形の示すものは本件発明の範囲に含まれないことを明らかにしているのである。
<4> この点について、原告は、当初の図面の第二図(実施例一)と第三図(比較例一)のDSCチャートを比較しても、本件発明のショルダーとその範囲外のショルダーとの境界線を定めることは不可能であると主張するが、本件発明においては、効果との対応関係が見られるのであるから、この二つのDSCチャートは峻別されるのである。
要するに、本件発明のように延伸性の効果を有するものであることをDSCチャートの図形の示す特徴点によつて形成される共通概念によつて初めて見出し、それを「明確なピークないしはショルダーを示さない」という表現でもつて示した場合においては、DSCチャートの図形によつて示されるものが右の共通概念に属するか否かの判断、換言すれば、「明確なピークないしはショルダーを示さない」に該当するか否かの判断は、効果との関連において認定せざるをえない場合が生ずるのが実情である。
換言すれば、当初明細書及び図面の記載によれば、本件発明の成立性に欠けるところはないから、それは同時に、特許請求の範囲のDSCチャートによる特定要件の記載は、比較例と峻別しうる程度に特定していることを意味している。
原告は、この点を論じないで、明細書の言葉を断片的に取り上げて論じるという誤りを犯している。
(3) 吸熱比及び吸熱ピークの半価幅の概念の加入は、当初明細書及び図面に記載されたDSCチャートの図形の補足説明にすぎないから、当初明細書の要旨を変更するものではない。
<1> 当初明細書において、吸熱ピークの「鋭さ」については特に触れていない。ところで、一般に、二つの物理的量の関係を縦軸と横軸とでグラフで表す場合に、物質の性質を見るため半価幅(縦軸の値が基準線から算定して山の最大値の半分になる位置の横軸の幅)に着目することは、広く行われている(例えば、吸収スペクトルにつき乙第二号証)。したがつて、本件発明において、当業者が図面を見て、吸熱ピークが鋭いか否かを判別するに際して、一つの方法として半価幅に着目することは慣用的な観察方法である。
このように、半価幅は、当初明細書の吸熱ピークの鋭さについての補足的説明にすぎない。
<2> 当初明細書には、DSCチャート上にショルダーが発現する位置が共通して、吸熱ピークより一〇度シー低温に認められることと、一〇度シー低温の位置の縦破線と吸熱カーブとの交点付近の現れるピークないしはショルダーによつて観察すべきことを図示し、説明している。
第二回補正により第一図には、ベースラインL、点A~Gが加筆されたけれども(本判決添付別紙二第一図参照)、一〇度シー低温の位置の縦破線と吸熱カーブとの交点Cの位置は、当初の第一図と同一であり、CがDSCチャート上にショルダーが発現される位置を示すことにつき、当初明細書の記載と異なるところはない。
さらに、吸熱比は、実施例及び比較例において、ピークA及び交点Cにおける単位時間当たりの吸熱量がそれぞれ異なるので、CD/ABを吸熱比として表現することにより、ショルダーの発現する位置を各実験例間で対比できるようにしたに止まるものである。
要するに、吸熱比は、ショルダーが発現する位置を示すだけであり、ショルダーが明確であるか否かの直接の指標となるものではない。しかも、第二回補正による全文訂正明細書に、「ここで吸熱ピークの鋭さは吸熱比及び吸熱ピークの半価幅によつて示すことができる」(甲第一〇号証の二第一〇頁一八~一九行、同様の記載として、一二頁一七行~一三頁一行)と記載されているように、吸熱比がショルダーの明確さを特定するものでないことは明らかである。
<3> なお、第二回補正で加入された「このピークの鋭さ及び他のピークないしはショルダーの有無は、後述の吸熱比及び吸熱ピークの半価幅によつて定量的に表わすこともできる」(同八頁一~四行)との記載は、一般の数値限定による先行技術又は比較例との峻別のための特定ではなく、実施例と比較例の各DSCチャートの見方として、半価幅及び吸熱比の基準を用いれば数値的に表現できるというに止まる。すなわち、ショルダーの明確さはDSCチャートそのものによらなければならず、ましてやショルダーが明確であるか否かの判断は、最終的は効果との対比関係によらなければならないことは前述のとおりである。
したがつて、上記記載は、原告主張のように特定のために新しい定義を加えたものではなく、DSCチャートの鋭い吸熱ピーク及びショルダーの発現する位置についての見方についての補足的な説明にすぎない。
(4) 原告は、第二回補正により加入された記載事項は当初明細書のDSCチャートによる特定要件の示す技術事項を実質的に変更し、拡張するものであると主張するが、誤りである。
上記のように、吸熱比及び半価幅の概念及び定義は、当初明細書のDSCチャートによる特定要件の補足にすぎず、ショルダーに関していえば、吸熱比はショルダーの発現する位置を示したものにすぎない。
吸熱比及び半価幅とショルダーの明確さとの間に対応する定量的な関係がないことは、原告も認めているのであり、このことからしても、上記記載が新しい特定方法を取り入れたものでないことが明らかである。
原告の主張は、この両者の間に関係がないことを無視した議論にすぎない。
(5) 審決が認定の根拠とした「当初明細書の融解図形の特徴から出願時に得られていたと認められるDSCチャート」とは、実施例三~五のものを指す。この各実施例のDSCチャートは、当初明細書に図面として添付されてはいなかつたが、同明細書中に、ピーク温度の数値、ショルダーの有無及びそのDSCチャートは第二図とほぼ同形と記載されている(前示(2)<2>([2])の「実施例二~四」、「第一表」、「実施例五」の記載参照)。
審決は、このことから、実施例三~五について現実にDSCチャートが作成されていたことを推認し、これを認定の根拠としたものであつて、原告の主張するような根拠のない認定ではない。
(6) 以上のとおりであるから、第二回補正が当初明細書の要旨を変更するものではないとした審決の認定判断は正当であり、原告の取消事由一の主張は理由がない。
第五 証拠《略》
第六 当裁判所の判断
一 《証拠略》によれば、審決が本件発明の要旨として認定した特許請求の範囲第一項の記載は、当初明細書、第一回ないし第四回補正を経た公告時明細書及び訂正審判で訂正の許可を受けた訂正明細書に至るまで、その記載に変更のないことが認められる。
そして、この本件発明の要旨が、「平均分子量が五〇〇万以上、非晶係数が〇・一以下、数平均の一次粒子径が〇・一~〇・四ミクロンであり」との要件(物性特定要件)と「示差走査熱量計による結晶融解図上三四七度シー±二度シーの範囲に鋭いピークを持ち、三三〇度シーから該ピークの温度の間には明確なピークないしショルダーを示さないこと」との要件(DSCチャートによる特定要件)から成ることは、当事者間に争いがない。
2 そこでまず、当初明細書及び図面によつて、本件発明のPTFEファインパウダーを特定できるものかどうかを検討する。
(1) 甲第八号証の二及び同第九号証によれば、このDSCチャートによる特定要件に関して、当初明細書の発明の詳細な説明には、被告がその主張二(2)<2>で引用している記載とともに、次の記載があり(いずれも昭和五二年一月二二日付第一回補正後のもの、この補正が当初明細書の要旨を変更するものでないことは当事者間に争いがない。)、この他にはこれを説明する記載はないこと、図面として第一図から第五図までが添付され、それらが本判決添付別紙一のとおりであることが認められる。
(あ) 「本発明にかかるPTFEフアインパウダーは、……示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter以下「DSC」と略記する。)により融点の測定を行うとき、三四七度シー附近に鋭いピークを持ち、それより約一〇度シー低温、特に三三〇度シーから該ピークの温度までの間には、明確なピークないしはショルダーを示さないか、又は示す場合にもわずかなショルダーにすぎない程度の結晶融解図を示すことを特徴とするものである。」(同号証の二第六項一〇行~七頁四行)
(い) 「DSC測定によつて得られる結晶融解のピークの温度は、一般に高分子量の重合体ほど高くなり、本発明にかかるPTFEフアインパウダーは、三四五度シーないし三四九度シーにピークを示す。更に結晶融解図はピーク温度から約一〇度シー低温の付近にほとんどピークを示さないか、又はわずかなショルダーが認められる程度のものである。ピーク温度より約一〇度シー低温の付近に顕著なショルダー、又は明確なピークが認められるPTFEフアインパウダーは、たとえ他の性質が要請される範囲にあつても良好な延伸性を示さない。本発明で見出されたこのようなDSC図形とペースト押出物の延伸性との関連は非常に興味あるものである。」(同七頁二〇行~八頁一二行)
(2) 以上の記載によれば、本件発明の要旨のDSCチャートによる特定要件の具体的把握は、あくまでも当初の図面第一図~第五図に示されているDSCチャートの図形そのものに基づいてされなければならないことが明らかである。
そこで、当初明細書に記載されている本件発明の実施例一~五と本件発明の範囲外のものとして挙げられている比較例一~三が、DSCチャートの図形そのものによつて判別されるものであるかどうかを検討する。
その前提として、各比較例が本件発明の要旨の上記物性特定要件を充たすものかどうかを見ると、甲第八号証の二によれば、比較例三の分子量は三五〇万であることが認められ、物性特定要件の「分子量が五〇〇万以上」という要件を充たさないものであること、これに対し、比較例一及び同二は、いずれも物性特定要件の平均分子量、非晶係数及び粒子径の各要件を充足するものであることが認められる。すなわち、比較例一及び同二は、DSCチャートの図形によつてのみ、本件発明の範囲外にあることが確認されなければならない。
まず、比較例一の第三図及び同二の第四図とも、DSCチャートによる特定要件のうちの「三四七度シー±二度シーの範囲に鋭いピークを持ち」の要件を充たす図形であることが認められ、これによつては、これら比較例が本件発明の範囲外であることをいうことができる。
そこで、上記特定要件のうちの「三三〇度シーから該ピークの温度の間には明確なピークないしはショルダーを示さない」について見ると、比較例二の第四図は、実施例一の第二図と比較して、当初明細書に記載されているとおり「三三八度シー近傍に明確な巾広いショルダーが観察された」(甲第八号証の二第二四頁一八~一九行)といつて差し支えない程度のショルダーが認められ、比較例二のPTFEフアインパウダーが上記特定要件を充たさないものであることが、DSCチャート上判別できる。
これに対し、比較例一の第三図と実施例一の第二図を対比すると、確かに、前者に認められるショルダーの方が後者に認められるショルダーよりやや大きいとはいえるものの、前者のショルダーが明確であり、後者のそれが明確でないとの区別ができるものとは、到底認めることができない。両者とも、比較例二の第四図や同三の第五図の示すショルダーと比べれば、わずかなショルダーしか認められず、「明確なピークないしはショルダーを示さない」ということもできる反面、実施例二の第一図に示されるショルダーが認められない図形と比べれば、ショルダーの存在が確認できる以上、これをもつて、明確なピークないしはショルダーを示すものと観察されることも充分考えられる。
また、仮に、第二図の図形は上記特定要件を充たすものであり、第三図のそれは充たすものでないとした場合においても、第二図のショルダーより大きく第三図のそれより小さいショルダーを示す図形の場合、これが上記特定要件を充たすものかどうかを判別することは不可能であり、当初明細書の記載及び図面は、この判別基準を全く明らかにしていない。要するに、「明確な」あるいは「わずかな」といつた視覚的かつ相対的な概念でもつて、限界事例を判別することは、本来できないことといわなければならない。
(3) 被告は、この点につき、本件発明においては、効果との対応関係が見られるのであるから、この二つのDSCチャートは峻別されるのであると主張する。
この主張の趣旨は明瞭ではないが、被告主張の文脈から推測すると、実施例一のPTFEフアインパウダーは高い延伸性を持つものであり、比較例一はそうではないものであることが確認されており、この高い延伸性の有無はDSCチャート上明らかな差異として現れるのであるから、両者のDSCチャートの差異は、両者を区別する差異として充分に認められるとの趣旨のように解釈できる。そして、確かに、両者に効果上の差異があることを前提として図面を見るときには、当初明細書に記載されているように、実施例一の第二図は「三三七度シーにわずかなショルダーが認められるものである」(同二〇頁一二~一三行)と、比較例一の第三図は「三三七度シーに明確なショルダーを持つものである」(同二一頁一六~一七行)と見る見方が生ずるかとも思われる。
しかし、いうまでもなく、本件発明の要旨である上記特定要件は、これによつて、本件発明の範囲に入るPTFEフアインパウダーとそうでないものを区別するための要件であり、それがDSCチャートの図形により判別すべきものとして規定している以上、効果上の差異があるかどうかとは無関係に、図形によつて特定要件を充たすかどうかを判別しなければならないのである。そして、この特定要件が必要かつ充分な要件として構成されている限り、特定要件を充たすものは上記の効果を有するものであり、充たさないものは上記効果を有しないものであるはずである。
効果上の差異を見たうえであれば、図形の差異を判別できるということは、つまるところ、効果上の差異を見なければ、図形の差異を判別できないことをいうに等しく、結局、上記特定要件が特定要件として不充分であることをいうに帰着する。
被告は、本件発明においては、「明確なピークないしはショルダーを示さない」に該当するかどうかの判断が効果との関連において認定せざるをえない場合が生ずるのが実情であるとも述べるが、そうであるならば、一定の効果を奏するものであることを示す指標、本件発明についていえば、例えば、被告の主張する高い延伸性(具体的には、100%/秒で二〇倍の延伸が可能)といつた指標を、可能ならば、特定要件として特許請求の範囲に記載すべきであつたのであり、そうでない本件発明において、上記特定要件を効果との関連において認定することは許されないのである。
(4) 以上のとおりであるから、本件発明においては、当初明細書及び図面による限り、上記特定要件は本件発明のPTFEフアインパウダーを特定するに充分とはいえないのであつて、結局、当初明細書及び図面に記載された発明の要旨は不明といわなければならない。
三 次に第二回補正について検討する。
(1) 本件発明の要旨の上記DSCチャートによる特定要件に関し、第二回補正により、明細書の発明の詳細な説明に、次の記載が加入され、図面第一図にベースラインL及び点A~Gが加入された(本判決添付別紙二第一図のとおり)ことは、当事者間に争いがない。
(ア) 「このピークの鋭さ及び他のピークないしはショルダーの有無は、後述の吸熱比及び吸熱ピークの半価幅によつて定量的に表わすこともできる。そのような表わし方に従えば、本発明の粉末は、吸熱比が〇・三以下、好ましくは〇・二七以下であり、吸熱ピークの半価幅が六度以下、好ましくは五・五度以下であるものと云うことができよう。」(甲第一〇号証の二第八頁一~八行)。
(イ) 「ここで吸熱ピークの鋭さは吸熱比及び吸熱ピークの半価幅によつて示すことができる。その求め方を第一図上で説明すると、ピーク(A)より垂線を下ろし、ベースライン(L)との交点を(B)とし、さらにこのピークの温度三四六度シー(注、原文の「四三六度シー」は「三四六度シー」の誤記と認められる。)より一〇度シー低い温度に前記垂線と平行に線をひき、吸熱カーブとの交点を(C)、ベースライン(L)との交点を(D)とするとき、CD/ABを「吸熱比」と定義する。また、ABの中間点(F)で横軸との平行線をひくとき、吸熱カーブとの交点EGの距離、すなわち吸熱ピークのベースラインからの高さの半分の点におけるピークの幅を「吸熱ピークの半価幅」と定義し、度の単位を持つ。」(同一〇頁一八行~一一頁一〇行)
(ウ) 「以上に加え、本発明のPTFEフアインパウダーは、DSC測定による前記吸熱ピークは非常に鋭いのが特徴であつて、この鋭さはこの粉末が吸熱比の〇・三以下および吸熱ピークの半価幅が六度以下としてあらわすこともできる。このような鋭さを有しないものは、たとえ他の性質が要請される範囲にあつても良好なテープ延伸性を示さない。」(同一二頁一六行~一三頁三行)
(エ) 「実施例一
……吸熱比は〇・二一、吸熱ピークの半価幅は四・三度である。」(同二四頁一二行、二六頁一〇~一一行)
「第二表
番号/吸熱比/吸熱ピークの半価幅(deg)
実施例二/〇・一九/五・三
実施例三/〇・二二/四・二
実施例四/〇・二八/四・三
実施例五/〇・二五/四・四
比較例一/〇・三一/四・五
比較例二/〇・三八/五・〇
比較例三/〇・五二/一五
(同三二頁)
「実施例六
……吸熱ピークの半価巾は四・二度、吸熱比は〇・二であつた。」(同三三頁一行、一八~一九行)
「実施例七
……吸熱比は〇・一九、吸熱ピークの半価幅は四・二度であつた。」(同三四頁四行、一二~一三行)
「実施例八
……吸熱比は〇・一七、吸熱ピークの半価幅は四度であつた。」(同三五頁一〇行、三六頁三~四行)
「比較例四
……吸熱比は〇・四で、吸熱ピークの半価幅は五度であつた。」(同三四頁一七行、三五頁六~七行)
(2) 前述のとおり、本件発明においては、当初明細書及び図面による限り、上記DSCチャートによる特定要件は本件発明のPTFEフアインパウダーを特定するに充分とはいえないところ、第二回補正による上記の記載が加入された全文訂正明細書によれば、DSCチャート上判別困難な場合にも、上記実施例一~八、比較例一~四に示される具体的な数値により裏付けられた(ア)~(ウ)の記載に基づいて、「吸熱比が〇・三以下、吸熱ピークの半価幅が六度以下」であるかどうかを判定の基準として用い、判別が可能となつたことが認められる。
例えば、当初明細書及び図面によつては判別困難であつた実施例一と比較例一の各PTFEフアインパウダーも、新しく加入された「吸熱比が〇・三以下」という基準に照らせば、上記のとおり実施例一の吸熱比は〇・二一、比較例一のそれは〇・三一であるから、比較例一が本件発明の範囲に入らないものであることが、数値により容易に判別できることになる。
すなわち、上記(ア)~(ウ)の記載は、当初明細書においては不明瞭であつた本件発明のDSCチャートによる特定要件の持つ技術的意味を、「吸熱比が〇・三以下、吸熱ピークの半価幅が六度以下」という定量的な定義により、具体的かつ客観的に把握できる明瞭なものにしたものといわなければならない。
(3) 被告は、吸熱ピークの半価幅は吸熱ピークの鋭さの補足説明にすぎず、また、吸熱比はショルダーが発現する位置を示すだけであり、いずれも、当初明細書の補足的な説明にすぎないと主張する。
しかし、上記(ア)~(ウ)の記載及び前記説示から明らかなように、この吸熱比及び吸熱ピークの半価幅に関する記載は、「吸熱比が〇・三以下、吸熱ピークの半価幅が六度以下」という具体的数値によつて、上記特定要件の持つ技術的意味を明瞭なものとし、本件発明の範囲に含まれるPTFEフアインパウダーとそうでないものとを識別することを可能にしたという意義を有するものである。
被告の主張するように、これが当初明細書の補足的説明にすぎないものであるならば、この〇・三及び六度という臨界的数値もまた、当初明細書及び図面から当業者が読み取ることができる事項、あるいは、これらから自明の事項でなければならないが、これを読み取ることはできず、自明の事項でもないことは、当初明細書及び図面の記載自体から、また、成立に争いのない甲第一四号証により認められる長谷川正木東京大学工学部合成化学科教授の鑑定意見によつて明白である。
被告の上記主張は採用することができず、そして、このことは、上記特定要件の持つ技術的意味を明瞭にした吸熱比及び吸熱ピークの半価幅に関する記載が、当初明細書及び図面に記載された事項及びこれらから自明の事項の範囲を超えるものであることを裏付けている。
四 以上のとおり、本件特許にあつては、当初明細書及び図面に記載された発明の要旨が不明であつたところ、これを第二回補正により要旨を明確なものにしたと認められるから、第二回補正は、当初明細書及び図面の要旨を変更したものといわなければならない。
要旨の変更に当たらないとした審決の認定判断は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、原告のその余の主張を判断するまでもなく、審決は違法として、取消しを免れない。
よつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 三代川俊一郎)
《当事者》
原 告 イー・アイ・デュポン・デ・ニモアス・アンド・カンパニー
代表者 ジェームス・ジェイ・フリン
訴訟代理人弁護士 水田耕一 同弁理士 小田島平吉 同 深浦秀夫 同 江角洋治 同 田中貞良
被 告 ダイキン工業株式会社
代表者代表取締役 山田 稔
訴訟代理人弁護士 吉井参也 同弁理士 中本 宏 同 松田 大 同 福井宏司